Close

2020年1月2日

藤田理代『旅の記憶 上佐曽利』

ダリアの里の思い出は、ダリア色の和紙に包まれて、受け継がれていきます…。
依頼に応じて現地を訪れ、取材を重ねて、一冊の小さな美しい豆本に思い出を綴じる『掌(てのひら)の記憶』。宝塚、西谷最北部に位置するダリアの里、上佐曽利を扱ったその1冊を、和紙で装幀したマチ文庫版の本として、作っていただきました。内容はもちろん、綴じ方や紙の選択などにもZINE作家の技をご覧ください。
〈本文の一節〉

ダリアの里、上佐曽利(かみさそり)
「掌の記憶、お願いしたい人がいるの」と兵庫県宝塚市にある GALLERY+CAFE muguet のオーナー友佳子さんに声をかけられたのは、2016 年秋。同じ市内でダリア農家の3代目として故郷のために活動する、梓さんという女性の記憶を綴じるという依頼だった。
宝塚駅から山道を北へ車で40分ほど。幾度か峠を越えると、宝塚の市街地からは想像できないほどのどかな山あいの田園風景が広がり、目的地の上佐曽利地区に着いた。昭和 5年から 80 年以上続く全国有数のダリア生産地で、梓さんが生まれ育った故郷。車から降りると、息子さんを抱いた梓さんに笑顔で迎えられ「村」と呼ばれる小さな集落を歩く。夏と秋には約250 種のダリアが咲く花園も開園して、お客さんで賑わうダリアの里。10月からの秋会期を前に蕾が膨らむ園の隣には、黄金色の稲穂が揺れ、畦道には真っ赤な彼岸花が静かに咲いていた。…

藤田理代

著者:旅の記憶 上佐曽利
制作年:2017年
仕様:A5判 24ページ 和綴じ
著者プロフィール:ZINE作家。29歳で絨毛がんを経験し、患者や家族の「大切な記憶」を交わすための手製本の制作・展示活動をはじめる。病院や地域で本づくりの移動アトリエ「記憶のアトリエ」をひらきながら、患者や家族、医療者が想いや記憶を交わすきっかけづくりを続けている。(2020年8月)